Reita MORIYA―APPRIVOISER-
200年の空白を経て、ジャパンブルー再び。
日本伝統の藍と現代左官を世界で初めて融合させた、初代 藍左師 守谷 玲太の個展が伊勢丹新宿店 本館6階 アートギャラリーにて、
5月8日(水)〜 5月14日(火)の7日間開催されました。
ーAPPRIVOISERー
アプリヴォワゼというフランスの言葉は、サン=テグジュペリの著作「星の王子さま」で知っている方も多いのではないでしょうか。
私がこの言葉をタイトルにしたのは、言葉の持つ「不思議」が藍に向き合って感じる感覚的な「なにか」と通ずると思ったからです。
言葉は、私達が共有する恐らくこれ、といった感覚のもと成り立つ定義が存在します。
藍に対峙して感じる感覚もまた漠然とした共感があるのです。
日本では虹は七色であり、藍色を含む。
逆を返せば藍という言葉があり、藍色というイメージを持つことが出来るからこそ、虹は七色なのだ。
アプリヴォワゼの翻訳には様々あるようだが、私は”時間をかけてお互いの理解を深め、仲良くなること”と解釈します。
藍色の作品を通して、私に見える景色をあなたに伝えたい。
あなたに見える景色を私に教えてほしい。
私にとって制作は良い意味で孤独であり、発表は共感と調和なのです。
藍の作品は、あなたの毎日に「気配」として存在し、視覚や心理に影響を与えます。
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個展を終えて。 守谷玲太
会期中は、毎日在廊した。
伊勢丹の常連さん、海外からの観光客、ふらっと立ち寄った人。ファンの方々。
休憩も取れないほど開店から閉店まで多くの方々に作品をご覧いただき、有り難い。
作品のほかにも、使用マテリアルの沈殿藍(ちんでんあい)や、藍畑の写真などもご覧いただいた。
藍は古くから口伝えで受け継がれてきたこともあり、作家としてはお喋りな振る舞いになってしまい、
泥臭いアーティストとして綺麗な白い空間に居座った。
藍に携わる人間も、世の移ろいと共に随分と変わったものだ。
有名な古典落語の演目「紺屋高尾」では、青く染まった爪を隠して吉原に花魁道中を見に行く。
それが2024年の春、皆が青い爪を見て「かっこいい、美しい。」とその手を握る。
更に私の場合は、左官技法に使う鏝(こて)を長年握ってきたことで、右手人差し指が左手より大きく隠しようもない。
よく知る藍染め以外の藍染めを見た皆は、なにを感じただろうか。
57作品、様々なサイズ、モチーフ、コンセプトでつくった。
これもまた泥臭い。
なぜかって、作品リストの作成は面倒が多くなり、梱包材もばらばらで積み込みも設営も大変。
エリア分けも頭を抱える。
しかし、それらのおかげでとても勉強になった。
空間全体をひとつの作品として捉えた時の見え方、人気不人気の差、次に活かせる良い経験となった。
作品は藍色で統一されている。
抽象画、花、波、雷、彫刻作品、コンセプチュアルなものまで多様にあるように見えたと思うが、作者としては
すべて繋がった大きな概念となっている。
100号サイズの圧巻な波の作品、その一つのしぶきを永遠にズームしていくと花が現れる。
花の一部を永遠にズームしていくと眼球に。
眼球をズームしていくと雷になり、、、といった具合だ。
生命、波、エネルギー、フラクタル。
すべては連続的に繋がったひとつである。
波の作品は、サーファーであるが故の難しいものでもある。
世界中を、日本中を旅して波に乗ってきた。
ビーチブレイクからリーフ、ダンパーからポイントブレイク。
サーフボード真っ二つで命の危険を感じたビッグウェーブ。
経験と記憶から波を描く。
波を描く作家が海に入る人間か、海を外から眺める人間か、作品を見ればわかる。
先に申した「難しい」というのは、波を描くことではなく、波の作品を世に出すということへの抵抗感のようなものだ。
葛飾北斎の神奈川沖浪裏はあまりにも有名な作品だが、北斎は海を外から眺める人間。
私がサーファー当人だからなのか、個人的な主観なのかわからないが、波やサーフボードはその存在以外のものに姿を変えた途端に
まったく魅力を感じなくなってしまう。
賽銭箱の上にある波の彫刻や、浮世絵、写真なんかは素晴らしいと感じるのだが、波やサーフボードのTシャツ、時計、絵。
すべてとは言わないが、魅力を感じない。
そうなってしまう怖さのような、それらの種に属することへの抵抗感のような。
そんな気持ちと葛藤してきた。
制作も大詰めとなったある日、アトリエから音が消えた。
頭の中も静かになり葛藤の痕跡も消え、無我夢中で波の作品を次々に生み出した。
守谷玲太という人間が藤沢に生まれ育ち、海に入り波に乗ってきた。
歩んできた道を信じ、好きという感情に純粋に浸ると、雑音は消え体は自然と衝き動く。
その行為から生まれた作品が世間からどう評価されようが知ったこっちゃない。
直感的善意とは、時に我儘にも見える。
左官、藍、アーティスト、すべて独学。
好きなものを掛け合わせ、表現していく。
この先も、自分自身の固定観念にすら囚われず、とことん傾奇者でいく。
そういえば、伊勢丹の屋上に神社があるのだが、社紋が江島神社と同じ向かい波に三つ鱗だった。
守谷玲太展 ご来場いただいた皆さま、ありがとうございました。心より感謝申し上げます。
SELENE ART MEDIA
伊勢丹新宿店アートギャラリースタッフ
アテーナ
風彩堂
守谷家